差押(強制執行)
債務名義のある請求権の実現のために債務者の資産から強制的に回収する手段のことを差押(強制執行)と言います。
強制執行が行えるようにするには、下記のいずれかが必要です。
債務名義の定義
・確定判決
・仮執行の宣言を付した判決
・抗告によらなければ不服を申し立てることが出来ない裁判
・仮執行の宣言を付した支払督促
・訴訟費用の負担等の額を定める裁判所書記官の処分
・金銭の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述(執行受諾文言)が記載されているもの
・確定した執行判決のある外国裁判所の判決
・確定した執行決定のある仲裁判断
・確定判決と同一の効果を有するもの
※一般的に裁判で勝訴し、それでも支払をしないので、差し押さえ(強制執行)をすると言われています。尚、公正証書の場合、強制執行に関する事項に合意があれば、裁判を経る事無く、差押(強制執行)が可能です。
強制執行の詳細
強制執行とは、民事執行の一つで、債権者が勝訴判決を得たり、当事者間での和解が成立する等により債務名義を取得し、債務者に金銭等の支払義務があるにもかかわらず、支払いに応じない場合に国の権力によって強制的に債務者の財産を差し押え、その差し押えた財産から債権の回収を図る制度です。
強制執行は、大きく分けて金銭執行と非金銭執行の2種類が存在します。金銭執行とは、金銭の支払いを目的とする債権を満足させるための強制執行です。債務者の財産の差押え、その財産を金銭に換価、債権者に配当、という三段階を経るのが通常です。金銭執行の代表例には、強制競売や債権差押があります。
非金銭執行とは、金銭債権以外の債権を実現するための強制執行です。非金銭執行の代表例には、不動産の引渡し又は明け渡しの強制執行や動産の引渡しの強制執行があります。
差押命令が債務者に送達されてから1週間経過すると、債権者は差押えた金銭を裁判所を間に入れることなく直接請求することができます。尚、差押えた金銭の支払を受けたときは、直ちに、その旨を裁判所に届け出なければなりません。
強制執行を行うにあたり、必ず「債務名義」、「執行文」、「送達証明書」が必要になります。債務名義とは、裁判判決や和解調書、公正証書等のことです。強制執行はこの債務名義に基づき行われます。
執行文とは、強制執行手続において、請求権が存在し、強制執行ができる状態であることを証明するためのものです。強制執行手続を行う裁判所は、判決を下した裁判所とは異なります。そのため、執行手続を行う裁判所は判決内容の正確な情報を持っていないので、判決が下り強制執行を行ってもよいと証明するものが必要になります。ただし、支払督促や少額訴訟の判決等、仮執行宣言が付されているような場合には、執行文は不要となります。
送達証明とは、強制執行を受ける相手に債務名義が送達されたことを証明するものです。強制執行を行うにあたり、相手側にあらかじめ強制執行を受けることを知らせることで、仮に、被告欠席の裁判で判決が出た場合に、判決内容を知らせることで執行後に異議を申立てられる事を回避する等のために必要になります。
強制執行は主に、不動産、金銭債権、動産が対象となっています。
不動産執行は、差押えた不動産を競売にかけて売却代金から債権の回収を図る強制競売と、差押えた不動産を管理し、そこで発生する収益から債権の回収を図る強制管理があります。対象の存在場所が判明していればほぼ確実に差押えが可能であり、配当金の目処が立てやすく強制執行の対象として重要になります。ただし、差押え前に抵当権等の担保権が設定されている場合、その担保を持つ債権者が優先して配当を受けることになりますので、回収は困難になるので注意が必要です。
債権執行は、債務者が第三者に対して債権を持っている場合、その第三者は第三債務者と呼ばれ、執行を申立てた債権者が債務者の代わりに第三債務者から支払いを受けることで債権を回収する方法です。例えば、債務者が勤務先に有する給料債権や、銀行に有する預金債権、取引先に請求できる売掛金債権等を差押えて債権を回収します。給料債権の差押えは、債務者の勤務先が判明していれば可能で、給料が社会保険料や税金を引いた額が44万円以下の場合は4分の1を、養育費の場合には2分の1を、44万円を超える場合は33万円を超えた額を差押えることができます。預金債権は銀行名と支店名が判明していれば可能ですが、債務者が銀行から借金をしている場合には、銀行に相殺を主張される可能性があるので注意が必要です。売掛金債権は債務者の取引先や取引内容等で特定できれば可能です。
動産執行は、債務者の家財等を差押え、換価して債権を回収する方法です。ただし、動産は評価額が低く、債権執行に比べ執行の費用がかかってしまいます。また、最低限生活に必要なものは差押えが禁止されているため、換価価値が高いものが少なく、あまり債権回収には向かない方法です。動産執行のみ事前の送達と送達証明書が不要となります。
この他にも、自動車、建設機械、船舶、航空機に対する強制執行や電話加入権差押等があります。
強制執行をする場合には相手の資産がどこに、いくらあるかを正確に把握していることが重要になります。債務者に預金、土地、家屋等、財産が何も無い場合に強制執行をしても債権回収は不可能です。ただし、強制執行に失敗したとしても、債権を満額回収できるまで何度でもできます。
相手の資産が分からない場合に、財産開示手続という制度があります。債権者は裁判所に債務者を出頭させて、債務者自身の財産状況を陳述させることができます。出頭した債務者は宣誓した上で、自身の財産状況、裁判官の質問、債権者の質問について答えなくてはいけなくなります。ただし、質問内容によっては許可されない場合もあります。債務者が陳述しなかったり、陳述内容に虚偽があった場合には、30万円以下の過料に処されます。
強制執行では債権者平等主義が原則で、差押えた債権に他の債権者が差押えをした場合、当分に配当されるので配当額が少なくなってしまい、債権の全額回収ができなくなってしまうことがあります。そのような場合に有効な制度が転付命令です。転付命令とは、債務者が第三債務者に対して持つ債権を、債権者に転付させる命令のことです。特徴は、差押命令の申立てと同時に転付命令を申立て、転付命令が送達された時点で他の債権者が同じ債権に差押執行等がない場合に、他の債権者に対して優先的に弁済を受けることが可能になります。ただし、転付命令の送達前に他の債権者が差押等を行っていた場合は効力は生じません。また、転付命令が相手に送達された時点で債権と執行費用が弁済されたとみなされてしまうという特徴もあります。そのため、第三債務者が無資力であったり、差押えた債権に質権等が設定されていて、全額回収できなかった場合の責任は自己で負わなければまりませんので、申立ての際には対象の資力を十分に確かめてから行う必要があります。
強制執行では、判決確定後に金銭を返還したにもかかわらず、その後強制執行をされるといった場合や、差押の対象が無関係の第三者のものであった場合に異議を申立てることができます。ただし、異議を申立てただけでは執行を停止することはできません。法律上理由があり、事実上の疎明があり、裁判所が認めた場合は、担保等を立てさせて執行停止や取消しをすることができます。
不動産執行の流れ
目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所に必要書類を提出する。
裁判所が目的不動産を差押える。
対象不動産を売却する。
債権者に配当される。
不動産執行申立の必要書類等
競売申立書(入手先:裁判所)
債務名義
執行文
送達証明書
不動産登記事項証明書(入手先:法務局)
公課証明書(入手先:市区町村役所)
住民票又は商業登記事項証明書(入手先:市区町村役所又は法務局)
各必要目録
収入印紙4000円
債権執行の流れ
債務者の住所地を管轄する地方裁判所に必要書類を提出する。
裁判所が差押命令を出す。
債権者が取立てをする。
第三債務者から支払いを受けた場合には、その旨を裁判所に届出る。
債権執行申立の必要書類等
債権差押命令申立書(入手先:裁判所)
債務名義
執行文
送達証明書
各必要目録
収入印紙4000円
動産執行の流れ
対象動産の所在地を管轄する地方裁判所執行官に必要書類を提出する。
執行官が動産を差押える。
執行官が対象動産を保管する。
対象動産を売却する。
債権者に配当される。
動産執行申立の必要書類等
申立書(入手先:執行官室)
債務名義
執行文
債務者に関する調査票
所在場所の案内図
各必要目録